ディスカバリーチャンネルでオンエアされていた株式会社ディスコ様のCM「成長編」は、時代と共に成長していく通信機器と子供の過程がモーフィングで表現されている。CM の編集と VFX 制作を担当した株式会社 QuadRoot 代表取締役 近藤寿一氏に、制作に使用した Smoke on Mac、After Effects、RE:Flex、mocha Pro についてお話を伺った。
株式会社QuadRoot Smoke on Mac と After Effects と プラグイン
~ 会社設立のきっかけとなった Smoke on Mac の登場 ~
学校では放送制作芸術を専攻していました。それから映像の世界に入り最初は IMAGICA でハリー、ヘンリーを使っていました。当時あったペイントボックスは絵が自由に書けて直感的ですごく楽しい機材だった。本当に細かく筆のようにペイントできたんですよ(笑)そのうち Autodesk が導入され、flame、inferno を使うようになりました。
会社を立ち上げたのは Smoke on Mac の登場が大きなキッカケですね。 それまではハイエンドのツールで、個人もしくは少人数で手が出る機材がなかった。そんな時に Mac で動く Smoke がリリースされ「じゃ、やろうか」となったんです。
~Smoke のワークフローにAEの豊富なプラグイン機能をプラス~
大手ポストプロダクションの IMAGICA に在籍していたので、基本的には Autodesk 製品で全部完結させる考え方でした。でも、だんだんと Smoke だけで完結させるには難しいお仕事がはいってくるようになって、色々と考えざるを得なくなったんです。今回の案件がそのいい例です。CM監督さん、プロデューサーさんとの打ち合わせで「携帯電話のカタチが変わり、それと共に人物が成長していくというコンセプトにしよう!」となって「モーフィングをたくさん使おう!」となった。
モーフィング機能を駆使する場合の選択肢は三つ。
1:ポスプロの flameで作業をする
2:AE を使えるフリーランスの方を探してお願いをする
3:AE プラグインを導入して自社のスタッフで作業をする
当時は AE ユーザーにコネクションがなかった事もあり、ピンポイントで AE のモーフィングを使いこなせる人を捜すのは難しかった。さらに、コストや手間のバランスを考えて AE と AE プラグインを導入したほうが効率いいのでは?と、なったんです。それから色々と検索して RE:Vision Effects 社の RE:Flex を知りました。
AE を仕事に生かしたいと常に思っていたので、個人的に触って勉強はしていました。AE はユーザーも多く、ayato@web だったり、チュートリアルムービーも豊富ですよね。Smoke の他に FinalCut も使っていましたし、AE はシンプルで覚えやすいと思いました。AE プラグイン RE:Flex の RE:Morph という機能は、オープンパスで対応する各エッジに適切な設定をすれば綺麗にモーフィングをしてくれる。目だったら目でパスを作るだけ。これもシンプルで分かりやすい考え方なので習得に問題はありませんでした。
モーフィングで一番難しいのは「変形している感」が出過ぎても無さ過ぎてもダメな事。モーフィングは移り変わっていく過程をどうやって見せるかが大事なんです。RE:Flex はプラグインのオペレートに気を取られることなく、トライ&エラーに充分な時間を取ることができた。ふだんソフトを使っている人ならすぐ使えるようになるんじゃないかな。僕もこの仕事で初めてこのプラグインを触りましたもん。同じ RE:VisionEffects 社の Twixtor と同様にクロスする動きは破綻したり歪んじゃう事も分かりましたよ(笑)
他に、マスク作業などは補助的に AE を使っています。基本は Smoke で行いますが作業量が多くて物理的に大変なときは AE にも渡す感じです。パーティクルが欲しいときはパーティキュラーで補って、ですね。AE もあったほうがかゆい所に手が届くような印象を持っています。Smoke on Mac がメイン、AE も AE プラグインも必要に合わせて使うというのが仕事の流れとして増えています。
~ mocha Pro でトラッキング&リムーブ作業が柔軟に ~
mocha Pro は電話機のボタンを光らせる部分に使っています。 もともと mocha というソフトは知っていて、AE にバンドルされていた mocha for AE でテストはしていました。その時テストしたのは凹凸があって丸みがあって奥行きがある難しい素材で、別のトラッキングソフトで追いかけたら追いきれず滑った感が出てしまった。次に mocha for AE でテストしたら満足のいく結果が得られたんです。テスト結果をクライアントさんが見て「完璧じゃないですか」と言ってくれたことがあって、mocha Pro の導入を決めました。
mocha for AE から mocha Pro にアップグレードしたのは Smoke にデータを渡すためです。mocha Pro は「無理でしょ」というのも追いかけてくれる精度の高さ、対応するホストアプリの柔軟性で、ちょっとした消しものをしたい時に、さっと消して Smoke にもっていくと作業が効率よくできでしまう。今では mocha Pro がないと仕事ができないぐらい使っています。
~ 1台のMacでカラコレも合成もCGも編集も!(笑) ~
このCMは4Kで撮影されています。ダヴィンチでカラコレ、Smoke & AE で完パケという流れでした。ソフトウェアはどんどん手頃になってきています。さらに Mac での作業もずいぶんと軽くなった。実は、今回モーフィングデータを仕込んだのは MacBookPro(Retina)なんですよ。移動中や自宅でモーフィングの仕込みをやりました(笑)これからは、Blender や Cinema4D といった CGツールも考えています。Smoke と FBX を連携したいですね。一台のMac でオフライン編集、ダヴィンチでカラコレ、Blender や Cinema4D で CG 作って、AE で素材を作って、Smoke で完パケ。
やろうと思えば何でもできる。ユーザーに選択肢が増えました。
ひとつの会社だけでまとまっていると情報がなくなってくる。Mac を持ってどんどん移動してコネクションを広げていきたいです!
近藤寿一(こんどう としかず)
2010年5月に大手ポスプロから独立し、株式会社 QuadRoot を設立。Smoke on Mac を核に据え、様々なアプリケーションを組み合わせた柔軟なワークフローの構築を目指し、現在に至る。