~”ストーリー”のある映像には映画的な流れがある~
■村松氏が映像をはじめたきっかけは?
「TOKYO HIKARI VISION」演出 村松 亮太郎 氏(以下村松氏): 映画が好きで役者の活動をしていくうちに自分で作るほうに興味を持つようになったんです。1995年ごろかな、兄が Mac と After Effects を使っていて、当時はバージョン3でした。まだ DTV が始まったばかりで、映像をフィルム調にする Digieffects のプラグインが出てきた時は衝撃でしたよ。
AE は映画と考え方が違って、カットをつないでいくのではなく、映像のレイヤーを重ねていく。それが面白くて最初にモーショングラフィックスにハマったんです。そうやって AE で楽しんで映像を作っているうちに仲間が集まってきて、自分で映画を撮りたいという欲求を追い求めていくうちに会社にせざるをなくなってきた。そして会社を起こしたのが26歳。ただ映画を撮りたかっただけなんですけどね(笑)
■~ミライを照らす「光の旅」~というテーマは?
村松氏: 東京駅は多くの人が集まる場所であり旅立つ所でもあります。そこで “あらゆる「光の世界」をめぐる旅” を提案しました。でも実は裏テーマがあるんです。裏テーマは「粒子」です。すべては漆黒の闇から光の粒子が生まれ豊かな世界を照らしだす… 僕は「粒子」にある種のロマンを感じているんです(笑)
カウントダウンの「0」からビッグバンが起こり、光が誕生する。そして宇宙になり星が生まれる。次に光が我々にもたらしてくれた「都市の光」。そして豊かな知恵が創った「叡智の光」。最後は世界をめぐった光の粒子が東京駅に帰ってきて、未来へつながるという構成になっています。ストーリーが背景にある映像は、見て何かを感じることができる。10分もプロジェクションマッピングの映像を見せるのはけっこう大変で、ストーリーがないと間が持たない。細かい設定は分からなくても映像には流れが必要だと思っています。僕は映画をずっとやっていたのでそこにこだわりがあります。ただの映像の羅列ではない、そこに込められた ”ストーリー” を感覚で感じてもらいたいです。
~厳しい条件の中で繊細な表現を追求~
■たった二日間という上映期間に関しては?
村松氏: クリエイターは複雑な気持ちだと思いますが、僕自身は伝説を作ったという事でポジティブに考えています(笑)
CGI担当 中村大輔氏(以下中村氏): 確かに複雑な気持ちですが、短い期間でも話題になりましたし、東京駅には想像をはるかに超えたお客様が集まりましたからね。テレビのお仕事はなかなかリアルな反応が見られないけれど、プロジェクションマッピングはその場で反応を感じることができる。短い期間だったが為にプレミアム感も付きましたし。
■今回の映像制作で特にこだわった点はありましたか?
村松氏: 表現として一番出したかったのは「繊細さ」です。プロジェクションマッピングはけっこう大づくりな作品が多い印象なので、今までにない繊細でアーティスティックな表現をしたかった。また、プロジェクションマッピングの特徴は、モニタとは違うリアルを体感できる事です。いつも生活している空間にある物質のように、現実と仮想をうまく融合した表現をしようと思いました。
中村氏: プロジェクターの技術が向上して「高密度で高精細な映像を出せる」というのがあって、それを生かした繊細な表現を目指しました。でも、実際はけっこうドギツク作らないと望んだ色が出てくれないとか、テスト投影が実際の東京駅ではなかなかできないという苦労はありました。
村松氏: 実はプロジェクションマッピングをするうえで、東京駅は条件があまり良くないんです。壁がレンガで茶色い。茶色だけじゃなくて白い部分もあります。しかも東京駅の周りはすごく明るい。目指す色を再現するのは非常に難しかった。
中村氏: プロジェクションマッピングは地が白いと一番素直に色が出てくれる。だけど東京駅は茶色と白のシマシマの部分が多くあって、明るくし過ぎると地のレンガが見えてしまう。繊細な光を表現したいのに、光りすぎると見えなくなる、というジレンマがありました。実際にテストするには、プロジェクターを18台組んで、光量を稼ぐために2台重ねたり… なかなか簡単にテストはできません。今回は東京駅の模型を導入し何度も投影テストを行いました。本格的な制作の前に実際の東京駅に投影する機会が一回だけあったんです。で、テストしたら散々な出来でした… モニタで見ている色と全く違う色になってしまって「まずいな」と思いやり方を変えました。地の色を打ち消しつつ欲しい色を出すフィルターを作りました。色の研究をしている大学の先生に話をききながら。それから映像はそのフィルターを通して作るという方向になりました。
~64bit環境の構築と適切なツール選択で効率アップ~
■スケジュールがタイトだったように思えるのですが?
村松氏: 企画からテストがあって… 実際の制作時間は一ヶ月なかったかな。
中村氏: 4Kという大きな映像をひとつ作って、それぞれのプロジェクター用に別々に書き出す作業がありました。マシンのスペックをかなり要求される作業が延々と続きましたね。このプロジェクトの為に64bitの環境を整えました。AEプラグインも追加して作業の効率化をはかりました。
村松氏: 作業の軽さと速さは重要です。とは言え一番重要なのはストーリーです。 このプロジェクトで一番使った AEプラグインは Trapcode Particular かな。「粒子」が裏テーマですから当然なのですが(笑)
中村氏: Trapcode Particular は色んな表現ができる。雪を降らせたり、チリを舞わせたり、微妙な空間や奥行きの表現ができます。費用対効果が非常に高いプラグインですね。あとは Plexus や Trapcode Form も使っています。Trapcode Form は Trapcode Particular にできない事ができますから。そしてメインツールである After Effects は3DCGソフトと連携ができるので便利です。
さらに AE にプラグインを追加することで3Dの表現が簡単にできるようになったのも嬉しい。普段3DCGソフトを使わないスタッフも3Dの表現ができて、3DCGのスタッフも AE で3Dの表現をできるようになって映像表現はもちろん、企画の幅も広がりました。
~ディレクターもデザイナーも常にクリエイティブでありたい~
村松氏: 演出もディレクターも3DCGツールやコンポジットツールをある程度使えるし理解している。何よりもお互いの垣根を越えて尊重し合っている。この短い期間でこれだけの作品を作るにはチームがしっかりしていないと駄目なんです。
中村氏: これからも大きなプロジェクトで映像を作っていきたい。ネイキッドという強いチームで良いものを作っていきたい。ということでただいまCGスタッフ大募集中です!
■ネイキッドさんの今後の展開は?
村松氏: 今後もプロジェクションマッピングというお仕事に興味はあります。プロジェクションマッピングが面白いのは「映像が四角いモニタを出た」ことにあります。映像表現の自由度が増した。今後はホログラムや現実空間への投影など、空間も時間も超え世界が広がっていくようなお仕事ができればと思っています。